今年の日本会計研究学会(以下、「JAA」という。)全国大会は、私が在住する関東圏、東洋大学白山キャンパスにて去る9月8日より10日までの3日間にわたって開催された。創立 1887(明治20)年という、伝統のある東洋大学なので、全国大会は何度も行われているかと思っていたが、今回が初めての開催と聞いて意外であった。
建学の精神 「諸学の基礎は哲学にあり」「独立自活」「知徳兼全」というのも、私の感覚の中にぴたりと収まる。
私は確か、早稲田大学の3年生の時に、日商簿記1級の試験を東洋大学白山キャンパスで受験したように記憶している。その時は、水道橋駅から白山通りを北へ向かって続くなだらかな上がり坂を随分と歩いたように思う。坂道だったためであろうか、高田馬場駅から早稲田大学本部までよりも遙かに遠い気がした。
今回は、会計アカデミーの塾生達から「都営地下鉄で白山駅から行かれた方がいいですよ」と勧められたので、それに従った。要所要所に行き先を示す看板を持つ学生の案内係が立っていて、挨拶をする声が初々しかった。5、6分で高層の建物と緑の木々、階段のある噴水・・・そんな瀟洒な風景が私を迎え入れてくれた。
さて、井上円了ホール玄関内で、横長の机に坐った大学職員から学会会員の所属を示す会員の名札と東洋大学の名入りの可愛い手提げ袋に入った分厚い資料をもらい、ホール内に足を踏み入れた。
すでに、会員総会が始まっていたようだ。前年度の会計報告が担当の先生により行われていた。
途中で質問を受け付ける時間があり、ずいぶんご年輩のどこかの名誉教授らしき方から、「シルバー会員」の会費についてのご注文等が率直になされたり、平松会長(元関西学院大学学長、米国会計学会副会長)からは、会計学の国際交流に係る旅費交通費等の一部学会費負担についてはいかがなものか、という提案もなされていた。
また、私の学生時代より税法学の権威で鳴らされた富岡幸雄中大名誉教授から、太田哲三博士、岩田巌博士など、懐かしいお名前を挙げられて、今のJAAに対する激励とも受け取れるご発言があり、満85歳とは思えぬ気骨あふれる凜とした大声が会場を覆った。しばらくは誰も、もの申せない余韻が後を曳いていた。こういう風景も、この学会ならではのものである。
温厚で、上品、国際的な視野を十二分に持たれる平松一夫会長を中心に、いまの日本会計研究学会は非常によくまとまっている。
それは、8日の夕方より、東京ドームホテルB1階大宴会場「天空」で開かれた懇親会にも現れている。
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今大会ではJAAと覚書協定を交わしている韓国会計学会(KAA: Korean Accounting Association)および台湾会計研究学会(TAA: Taiwan Accounting Association)からいらっしゃった会長をはじめとする重鎮が、京都大学の徳賀芳弘教授(下記写真の右端でマイクをお持ちの方)よりご紹介された。赤い胸章リボンを付けられた方が韓国会計学会会長でおられる。
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昨年秋に神戸国際会議場と関西学院大学上ケ原キャンパスで開催された本学会の第68回大会で選出された平松現会長が、「新会長として、学会の国際化をはじめとする改革を実行していきたい。韓国会計学会や台湾会計学会との交流なども進めていきたい」と抱負を語られた。そのとおりの舞台が実現したことになる。
第4問同様、あくまでも当アカデミーの塾生による受験報告を口話から聴き取った範囲での印象による解説なので、現段階では必ずしもその妥当性を保証するものではないことをあらかじめおことわりしておく。
[問題文]A社は、当期に製品Xを40,000個製造し、価格200円にてそのすべてを販売した。そして、全部原価計算により、下記の損益計算書を作成した。時期の利益計画のため、製品Xを原価分析した結果、製品1個について、変動費は直接材料費40円、直接労務費10円、製造間接費20円、販売費5円であることが判明した。なお、直接材料費と直接労務費はすべて変動費であり、製造間接費と販売費および一般管理費については、変動費以外は固定費である。また、期首と期末に仕掛品および製品の在庫はないものとする。
問1 答案用紙の直接原価計算による当期の損益計算書を完成させなさい。
| 損益計算書 | (単位:円) |
| 売上高 | 8,000,000 |
| 売上原価 | 4,000,000 |
| 売上総利益 | 4,000,000 |
| 販売費および一般管理費 | 2,400,000 |
| 営業利益 | 1,600,000 |
[印象と解説]
(これは第4問と比べるとずいぶん素直だなぁ・・・)
という印象を受けた。
まず、「期首と期末に仕掛品および製品の在庫はないものとする。」という文言で全体のレベルを簡素化している。ただ、現代の若者たちには文章の読解力が相当不足しているので、見た瞬間に(これはむずかしい!)と頭が真っ白になりお手上げになった諸君も意外と多かったのでは、とも感じた。
では、解説を試みよう。
まず問1。
この手の問題では、製品1個当たりの固定製造間接費がいくらになっているのか、を突き止めることが最大のポイントである。なぜなら、全部原価計算方式では製品原価に固定製造間接費を含めてしまうため、それが売上原価にも反映されてしまう。もし仮に、販売量が生産量よりも少なければ、その分、販売量に含まれる固定製造間接費(つまり売上原価に含まれる固定製造間接費)が少なく割り当てられることになる。これに対し直接原価計算方式では、販売量の多い少ないに関係なく、当期の生産量に対して固定製造間接費を割り当てるので、利益計画を作成する観点からはきわめて合理的な方式と言える。
製品1個当たりの固定製造間接費は、与えられた損益計算書の売上原価から判明する。全部原価計算方式の売上原価が4,000,000円ということは、それを販売個数40,000で割れば、1個当たりの全部製品原価100円が明らかとなる。その内訳は、直接材料費40円、直接労務費10円、変動間接費20円(変動製造原価はその合計70円)がすでに問題文に明示されているので、残額は30円(100-40-10-20)で、これが製品1個当たりの固定製造間接費である。
あとは、解答用紙の損益計算書を要領よく仕上げる。その際、製品1単位当たりの販売または製造単価と、売価に対する比率を書き添えることを忘れないようにする。むろん、答案の提出時には単価、比率は消しておく。
| 直接原価計算による損益計算書 (単位:円) | ||||||
| 単価 | 販売量・生産量 | 売価を1とした比率 | ||||
| 売上高 | @200 | × | 40,000個 | 8,000,000 | 1 | |
| 変動売上原価 | 70 | × | 40,000個 | 2,800,000 | 0.35 | |
| 変動製造マージン | 差引 | 5,200,000 | 0.65 | |||
| 変動販売費 | @5 | × | 40,000個 | 200,000 | 0.025 | |
| 貢献利益 | 差引 | 5,000,000 | 0.625 | |||
| 製造固定費 | @30 | × | 40,000個 | 1,200,000 | ||
| 固定販売費・一般管理費 | 2,400,000-200,000 | 2,200,000 | ||||
| 営業利益 | 1,600,000 | |||||
直接原価計算による損益計算書 (単位:円)
単価 販売量・生産量 売価を1とした比率
売上高 @200 × 40,000個 8,000,000 1
変動売上原価 @ 70 × 40,000個 2,800,000 0.35
変動製造マージン 差引 5,200,000 0.65
変動販売費 @ 5 × 40,000個 200,000 0.025
貢献利益 差引 5,000,000 0.625
製造固定費 @ 30 × 40,000個 1,200,000
固定販売費・一般管理費
2,400,000-200,000 2,200,000
営業利益 1,600,000
問2 これは、上記の損益計算書と比率を応用すれば容易に解答できる。
比率
売上高 ④ 5,440,000 1
変動売上原価 1,904,000 0.35
変動製造マージン 差引 3,536,000 0.65
変動販売費 136,000 0.025
貢献利益 差引 ③ 3,400,000 0.625
製造固定費 ② 1,200,000
固定販売費・一般管理費 ② 2,200,000
営業利益 ① 0
①まず、損益分岐点では営業利益はゼロであるので、営業利益のところを0とする。
②次に、固定費は変わらないので、製造固定費、固定販売費・一般管理費はともに問1の数値を記入する。
③貢献利益から固定費を差し引いたものが営業利益だから、貢献利益は①と②を加えて3,400,000とする。
④貢献利益を売価で割った数値(貢献利益率)が0.625
(1-0.35-0.025)なので、逆に、貢献利益3,400,000円を 0.625で割ってやり、求められている売上高を計算すればよい。5,440,000円となる。
解答では求められていないが、上記には変動売上原価、変動製造マージン、変動販売費もそれぞれの比率を乗じて示してある。
問3 営業利益を2倍、つまり3,200,000円(1,600,000円×2)にするために必要な売上高も、結局は、上記の比率を加味して、損益計算書の形で求めるのが最も容易である。
売上高 ④ 10,560,000 1
変動売上原価 3,696,000 0.35
変動製造マージン 差引 6,864,000 0.65
変動販売費 264,000 0.025
貢献利益 差引 ③ 6,600,000 0.625
製造固定費 ② 1,200,000
固定販売費・一般管理費 ② 2,200,000
営業利益 ① 3,200,000
解答への手順を示そう。
①営業利益のところに3,200,00を記入する。
②固定費は、上記と同じ数値をそれぞれ記入する。
③貢献利益は①と②の合計額
6,600,000(3,200,000+2,200,000+1,200,000)を記入する。
④最後に、貢献利益を貢献利益率0.625で割って必要な売上高を求めればよい。
10,560,000(6,600,000÷0.625=10,560,000)円となる。
なお、先ほどと同様、解答では求められていないが、上記には変動売上原価、変動製造マージン、変動販売費もそれぞれの比率を乗じて示してある。
あくまでも当アカデミーの塾生による受験報告を口話から聴き取った範囲での印象による解説なので、現段階では必ずしもその妥当性を保証するものではないことをあらかじめおことわりしておく。
[問題文]HT製作所の労務費に関する下記の資料から、答案用紙の( )内に適切な金額を記入しなさい。なお、当製作所では、直接工は直接作業にのみ従事しており、予定賃率を用いた消費賃金でもって直接労務費を計算している。 間接工賃金と給料に関しては、要支払額でもって間接労務費を計算している。
[資料]
1.給与支給帳によれば、1月21日から2月20日の賃金・給料の総額は3,468,000円であった。内訳は次のとおりであった。
| 直接工賃金 | 1,448,000円 |
|---|---|
| 間接工賃金 | 900,000円 |
| 給 料 | 1,120,000円 |
| 月初未払額 | 月末未払額 | |
|---|---|---|
| 直接工賃金 | 455,800円 | 395,500円 |
| 間接工賃金 | 300,000 | 270,000 |
| 給 料 | 100,000 | 110,000 |
[印象と解説]
(従来の出題傾向よりもかなりきめ細かい内容だなぁ・・・)
という印象を受けた。
さすがに良く練られた良問であると思うが、正直のところ、平均的な簿記2級レベルの会計学徒がここまでの内容を正確に完璧に解答できることは、問題作成者の意図に反して存外難しいかも知れない、とも感じた。
では、私なりに、解答手順を示そう。
①直接工賃金、間接工賃金、給料の各勘定をT字形で素早く作成する。
②上記各勘定の貸方1行目に[資料]3.に与えられている月初未払額をそれぞれ素早く記入する。
③上記各勘定の借方1行目に[資料]1.に与えられている給与支給額を素早く記入する。
④上記各勘定の借方2行目に[資料]3.に与えられている月末未払額をそれぞれ素早く記入する。
⑤上記各勘定の貸方2行目には賃金・給料の消費額を③の金額+④の金額-②の金額にて、それぞれ記入するのであるが、直接工賃金勘定だけは「予定配率を用いた消費賃金」で計算しているため、[資料]5.の予定賃率2,200円と、[資料]2.の直接工の実際直接作業時間630時間を乗じた金額1,386,000円と記入する。すると、同勘定は借方合計1,843,500円、貸方合計1,841,800円となり貸方にその差額1,700円が記入されて帳尻が合う。これは、言うまでもなく、賃率差異(借方差異)として賃率差異勘定借方に転記される。間接工賃金勘定から判明する消費額は870,000円、給料勘定から判明する消費額は1,130,000円となるのは各勘定の貸借差額から容易に理解できる。
⑥実は、⑤で求めた各数値が賃金・給料勘定にそのまま総合されて記入されるのである。
賃金・給料勘定の貸方1行目は455,800+300,000+100,000=855,800円が前月繰越として記入され、貸方2行目は1,368,000+870,000+1,130,000=3,386,000円が消費額として記入され、一方、借方1行目の支払額はむろん[資料]1.の3,468,000円、借方2行目の次月繰越は[資料]3.の月末未払高合計の775,500円が記入される。この結果、賃金・給料勘定においても貸方3行目に原価差異1,700円が記入されて帳尻が4,243,500円で一致して締め切られる。
⑦製造間接費勘定記入のポイントは、借方2行目の間接労務費の賃金・給料の数値は、間接工賃金の支払額870,000円と給料の支払額1,130,000の合計2,000,000円となることである。借方3行目の間接労務費の賞与引当金は、[資料]4.の年間見積総額9,600,000円を12で割って、月ベースの800,000円の金額を記入すればよい。また、貸方の予定配賦額は借方合計で求められ、5,040,000円である。
⑧仕掛品勘定への記入は、⑧で求められた製造間接費予定配賦額5,040,000円を借方4行目に記入して貸方合計金額9,051,860円との貸借差額を算出し、後はその金額59,630円を月初在高( )欄へ記入すればよい。
今からちょうど7年前の平成14年10月31日に、温泉開発にまつわる、最高裁判所の判決があった。
「温泉掘さく不許可処分取消請求事件」というものである。えらく長い名称の事件であるが、法律界特有の表現だと思えば、国語力の不足する若い人たちには多少の国語勉強にもなろう。
要は、「土地所有権及び温泉利用権の効果」を盾に温泉掘さく不許可処分の取消しを主張する原告である温泉開発者と、温泉掘さくを都道府県知事の許可制としている温泉法の規定を盾に「公益を害するおそれのある開発と認められる」として掘さく不許可処分の正当性を主張する被告である地方自治体(洞戸村)との争いだった。
判決要旨はつぎのとおりであった。
温泉法が温泉の掘さくを都道府県知事の許可にかかわらしめている趣旨は、既存の温泉源の保護と土地所有権当の新規又はこれに準じる温泉の掘さく及び利用に関する権利との調和を図ることによって、温泉を適正に利用できるようにする点にあり、法4条1項の「温泉ゆう出量、温度若しくは成分に影響を及ぼし」との文言は、それに続く「その他公益を害する虞がある」場合の具体的例示であって、これらの例示による事項とは性質を異にする温泉掘さく後の開発行為による環境への影響や周辺住民の意向のような事情は、同項の「その他公益を害する虞がある」場合には当たらない。
また、判決文主文の冒頭は、つぎのとおりであった。
1 被告が原告に対し平成13年7月10日付けをもってなした、原告が岐阜県武儀郡
a557番1において温泉を掘さくすることを不許可とした処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
どうであろう。
地方自治体側の行政処分にも、一理はある。
環境省自然環境局によれば平成19年度の温泉を備えた宿泊施設(ホテルや旅館)は全国で1万4907施設、温泉を利用した公衆浴場(日帰り温泉施設)は7859施設となっている。合計2万2766施設は増える一方だが、その中身には深刻な問題が起こっている。
温泉掘さく技術が進化し、大深度掘さく(1000メートル以上の深度)・掘さく源泉数の増加で、掘さく湧出量は毎分280万リットルにも上っている。温泉湧出量に限れば昭和38年度の3倍以上である。このうち動力湧出量はおよそ毎分200万リットルであるのに対し、自然湧出量は毎分80万リットル、平成11年度をピークに減少傾向にある。
地元の温泉宿泊施設が悲鳴を上げるのも無理はない。地元以外の日帰り温泉業者が大型掘さく機で源泉数を拡大、無理やり地中から汲み上げて温泉資源が枯渇し、お客までごっそり取られてしまうのだから、これはたまらない。営業妨害といった被害者意識も生まれなくもない。地方自治体も、こうした地元業者の利権を保護するためにも本気で動かざるを得ない。
くだんの最高裁判所の判決も、むろんこうした背景があることを理解しつつも、それでもなお温泉法の法文構成にこだわった。
裁判所の判決は言う。
法4条の「その他公益を害する虞がある」という文言は、「温泉ゆう出量、温度若しくは成分に影響を及ぼし」という文言に続いて記載されており、その法文構成からすると、「温泉ゆう出量、温度若しくは成分に影響を及ぼし」とあるのは、それに続く「その他公益を害する虞がある」ときについての具体的例示と解するのが自然であり、掘さくによって既存の温泉源に与える影響の問題とは関係がない温泉掘さくに伴う開発行為に関する事情を「その他公益機を害する虞がある」場合に含めることは困難である。
私が見るところ、本件では地方自治体の「攻め方」に、裁判官の心証を害するような「勇み足」があったように思われる。裁判官も人間である。
この事案では、地方自治体は以下の3点を強調していた。
① 掘さく許可にあたっては周囲の環境との調和が考慮されるべきであり、環境の享受主体である地元住民がほとんど反対しているのは、申請が周囲の環境と調和しておらず、 ひいては、優れた自然環境と縦貫起用への影響が懸念されることの現れである。・・・・・
原告は大規模な施設建設を予定しており、そのような施設への来訪者の増加に伴って当然に予想されるゴミやし尿処理など自然環境や地域住環境に与える具体的懸念に対し、地元説明会などで住民を納得させるに足りる対応策を提示できなかったため、住民のほとんどが反対に回り、村議会の反対決議を始め、関係団体全てが反対の要望書を提出している。
② 原告が掘さく後に建設を予定している大規模な温泉利用施設へのアクセス道路は、未整備かつ法面崩落の危険がある道路であり、利用者増加に伴う道路の維持管理上のm問題が発生することは明らかな状況であるところ、これら道路の拡幅、整備のために必要な地権者の同意や村の財政問題について、原告は何らの対応策も示していない。
③ 原告は温泉掘さくそのものと、その後の利用形態やそれに伴う問題は分けて考えるべきであると主張するが、掘さくはその利用を企図して行われるものであって、一連の行為であるという実態があり、認可処分もそれを前提として行うのを通例としている。原告の主張は縦割り行政の弊害を是としかねないものであり、原告はそれをよしとしな い。
しかし、地方自治体の主張の論理構成・論理展開がまずかった。
もし、原告に勝つための裁判であれば、政治上の課題は持ち出すべきではなく、あくまで「温泉掘さく」そのものにより、湧出量、成分に具体的な変化が出てくる点を、争点にすべきであったかと思われる。全国におけるあらゆる資料を総動員してでも、争点がブレない配慮が必要ではなかったか。「温泉法」を盾にする限りは、その立法趣旨に沿った攻め方があったはずだ。
裁判官は、住民の意向で判決を下すわけではない。あくまで、事案の総合的な分析を基礎として、関連法文の趣旨、解釈に沿って現実的・公正的な角度から結論を出すのである。
温泉に浸かりながら、考えた。
そもそも、温泉とは何だろうか?
これを考えるとき、私のような社会科学の道に入った人間の思いつくところは、やはり法律の定義になってしまう。習性であろうか。
我が国の温泉法は昭和23年に制定されている。
「温泉とは、地中から湧出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。」
その「別表」には、温泉源から採取されるときの温度が摂氏25度以上のものか、下表に掲げる物質のうちいずれか一つが基準値を上回るもの、と規定している。
「物質」には、ラドンや重炭酸ナトリウムなど19の名が示されている。
※別表
一 温度(温泉源から採取されるときの温度とする。) 摂氏二十五度以上
二 物質(左に掲げるもののうち、いづれか一物質名) 含有量(一キログラム中)
溶存物質(ガス性のものを除く。) 総量一、〇〇〇ミリグラム以上
遊離炭酸(CO2) 二五〇ミリグラム以上
リチウムイオン(Li・) 一ミリグラム以上
ストロンチウムイオン(Sr‥) 一〇ミリグラム以上
バリウムイオン(Ba‥) 五ミリグラム以上
フエロ又はフエリイオン(Fe‥,Fe…) 一〇ミリグラム以上
第一マンガンイオン(Mn‥) 一〇ミリグラム以上
水素イオン(H・) 一ミリグラム以上
臭素イオン(Br,) 五ミリグラム以上
沃素イオン(I,) 一ミリグラム以上
ふつ素イオン(F,) 二ミリグラム以上
ヒドロひ酸イオン(HAsO4,,) 一・三ミリグラム以上
メタ亜ひ酸(HAsO2) 一ミリグラム以上
総硫黄(S)〔HS,+S2O3,,+H2Sに対応するもの〕一ミリグラム以上
メタほう酸(HBO2) 五ミリグラム以上
メタけい酸(H2SiO3) 五〇ミリグラム以上
重炭酸そうだ(NaHCO3) 三四〇ミリグラム以上
ラドン(Rn) 二〇(百億分の一キユリー単位)以上
ラヂウム塩(Raとして) 一億分の一ミリグラム以上
つまり「温泉」とは、地中から湧出されてさえいれば、何の成分が無くても摂氏25度以上であれば該当するとともに、それとは別に、まったく温かくなくても特定の「物質」が基準値を上回っていれば、「温泉」に該当するのだ。
我が国の温泉法第一条では 「この法律は、温泉を保護し、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害を防止し、及び温泉の利用適正を図り、もつて公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。」と、規定している。
このコラムをご覧になっている方の中には、イタリア在住の方や、オランダ在住の方等もいらっしゃる。
海外ではほとんどご老人が温泉療法目的で水着で温泉に浸かっているという実情に照らしてみれば、日本の温泉は老いも若きもそれぞれ男湯女湯別に真っ裸でにこやかに湯に浸かり、湯上がりにはビールとおいしい新鮮な料理が待っている、という構図が羨ましいと思われることだろう。(私の弟はアメリカ・フェニックス在住で、いつも日本に帰ってくる度に、温泉と料理のすばらしさを口にする。独特のくつろぎ感は堪えられないようである)
もっとも、オランダで初めてローマ帝国の都市権を得た街として知られるナイメーヘン(基礎自治体で、埼玉県東松山市と姉妹都市。)には、泉質が食塩泉の温泉があり、温泉のほかにミントのサウナやユーカリのスチームサウナ、ラベンダーのジェットバスなどがそろっているようだ。ある旅行者の方によれば、「風呂上りのビールも最高!」らしいから、日本の温泉施設とあまり変わらない満足感があるのかもしれない。しかし、日本庭園の中の檜風呂や岩風呂は独特の風情があり、浴衣姿での湯上がりの一杯は同じ「最高!」でも、そのくつろぎ感は日本人の感性にピッタリしたものであろう。
